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父はある日、ほとんどの視力を失った。それは私が幼い頃、季節の移ろいのように突然訪れた。父はその後、失明を免れたものの、もう決して以前のようには見ることができなかった。そのことが、私たち家族の生活を静かに、しかし深く変えていった。父はそのことについて語ることはなかったが、「もしも、もう一度、この世界の美しさを、そのままの形で見ることができたなら」と、どこかで思っていたに違いない。
近年、父が亡くなり、私はしばらくの間、父のことを思い出していた。そして、ふと気づいたことがある。父が「もう一度、世界を以前のように見たい」と心の中で強く願っていたことを、子供の頃の私は無意識に感じ取っていたのだろう。私は今もなお、日々写真を撮り続けることで、その願いを叶えようとしている自分に気づく。世界を見ることが、いつの間にか私にとっての至上の幸福となっていた。その背後には、父の思いが流れていたのだ。そのことに今さら気づくとは不思議なことだが、それもまた、父と私の間にあったどこか滑稽な行き違いの表れだったのかもしれない。そして、そう気づいた今、私はその思いを静かに胸に刻んでいる。
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